第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
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いらないことを、言わなければよかった。私のその言葉が引き金となり、楽の中で何かが弾ける。まるで、怒りを思い出したかのように一瞬で顔つきを変えたのだ。
瞳孔が縦に縮み、ギリっと歯を食い縛る音がこちらにまで聞こえた。
「すぐに終わらせる、ねぇ。なら俺も協力してやるか」
虎於は下卑た笑みを浮かべ、私の頭をぐっと下へ押し込めた。突如として喉奥に、赤く腫れた硬いものが捩じ込まれる。こういう些か乱暴なプレイも過去にはあったが、このサイズの物では初めてだ。つい堪え切れず、うっ!とくぐもった声を漏らしてしまう。
「もう、見てられるか…!おいこらテメェ、いい加減にし」
私は、大股で近付いてくる楽に、左手を上げ制止した。
虎於はそんな成り行きなど気にすることなく、快楽を追い求める。生理的な涙で目を潤ませる私を、恍惚の表情で見つめた。
「っ …クソ!お前、自分が何されてんのか分かってんのか…っ、なんで…止めるんだ…」
「本当に、分からないのですか?どうして彼が、貴方に大人しくしているようにお願いしたのか」
場違いなほど穏やかな声で告げるのは、巳波だ。楽は悲しそうに、悔しそうに、目元を手で覆って絞り出すように呟く。
「…分かってる。俺達を、守る為だってんだろ」
「あら、意外と大局が見えていらっしゃったんですね。でしたらやはり、静かに見守って差し上げるのが得策では?
どうせ、守られることしか出来ないのだから」
巳波は楽の肩に、優しく手を置く。しかしすぐに身を翻した。
「私は見張りに戻りますね。面倒ですが、一度は引き受けてしまったことですので。
では、ごゆっくり」