第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
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『は…っ、はぁ…、は』
「ふ、今まで見てきたあんたの表情で、1番良かったぜ?」
虎於は、てらりと光る指を自らの口元に持っていこうとする。私は彼が汚れを舐めとる前に、胸ポケットから出したハンカチで拭き上げた。
「それじゃあ次は、俺の番だな」
『…分かって、ますよ』
彼は椅子でなくテーブルに腰を落ち着ける。その姿に、私は密かに安堵した。さすがの虎於も、こんな場所で最後の行為をするつもりはないらしい。当たり前といえば、当たり前だが。
そうと決まれば、さっさと終わらせるに限る。今まで培ってきた手練手管を、惜しみ無く駆使させてもらうとしよう。
私は男の前に膝立ちになる。そしてジッパーだけ下げるのではなく、ベルトも外した。こうした方が、作業し易いからだ。
それは、まだ完全に立ち上がってはいない。しかし、確かな存在感があった。さすが、セレブで遊び人で、抱かイチに輝いた男。とでも言ったところか。
唇を軽く湿らせてから、先端、くびれとキスをするように触れていく。
相手の顔を、見上げたりしない。どんな表情をしているかなど気にならないからだ。正解か不正解かは、彼の分身が教えてくれる。私が気に掛けるのは、それだけでいい。
この感覚は、久し振りだ。そんな懐古的な心持ちで、続ける。
舌と唇を使って扱いていると、陰茎はむくむく生き物のように膨らんでいく。喉の奥を使い、頭を刺激し始めた、その時だ。
何者かが、パーテーションを甲で叩く音がした。それは控え目で、上品なノックだった。