第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
再び、視界いっぱいに虎於の顔が広がる。妖艶に近づいて来る、人を快楽に落とす唇。私は手の平でそれを覆い、阻止をした。
『貴方…、正攻法で私を手に入れると言ってたでしょう』
「あぁ、それは気持ちの話だろ。体までそうしてやると、宣言した覚えはないぜ」
虎於は、口元を覆う手をどけて告げる。分かったら、さっさと続きをさせろ。ギラついた瞳が、そう語っていた。
私には、拒否権がないのだろう。もし拒絶したならば、彼がどんな暴挙に出るか分からない。矛先が私に向くなら良いが、おそらくそうじゃないだろうから。
『…分かりました。付き合います。ですが、場所を変えま』
「おいおい。萎えること言うなよ。それとも、本当に分かってないのか?
“ ここで ” するから良いんだろ」
私が眉を顰(ひそ)めた、その刹那。
威勢の良いスタッフの声がスタジオ内に響く。
「TRIGGERさん入られまーす!」
その声を耳にした瞬間に、この男の目的を悟る。
『貴方…本当に、良い性格してますね』
これには何も答えず、虎於は再び唇を重ね合わせた。
ちなみに。
私が最も懸念していること。誰かにこれを目撃されてしまうというものであるが、実はそんなもの、無用の産物であった。
私には知る由もないが、虎於に頼まれた巳波により警戒の目が光っていたからだ。もし誰かがこのスペースへ近付けば、ここは使用中だと追い返す算段になっている。
そうとは知らず、私の内面は少しずつ乱されていく。
緊張と、不安と呆れと増悪と。そして、快楽によって。