第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
1時間後。私は当然のようにTRIGGERが歌うスタジオに見学へ行こうとする。彼ら4人にも声を掛けたのだが、あっさりと断られてしまった。
TRIGGERから吸収出来るものは山ほどあると思うのだが、そう考えていたのはどうやら私だけのようである。
仕方なく、1人で楽屋を後にする。ただ、頭の隅に何かが引っかかった。それが何なのかよくよく考えてみると、1つの答えに行き当たる。
虎於と巳波が、私を止めないことに違和感を持ったのだ。トウマと悠は置いておいて、あの2人が私の行動を制限しないのは不可解だ。TRIGGERとの接触は、私にとって有意義なもの。それを、彼らが黙って見過ごすだろうか。
扉を潜る、その刹那。私はその2人をさりげなく見やる。
彼らの笑顔が、悪人じみているふうに見えてしまうのは、気のせいなのだろうか…
こっそりと、スタジオ内に足を踏み入れる。TRIGGERの姿は、まだない。忙しなく動くスタッフ達や関係者の中に、見知った顔をいくつか発見した。なるべくなら顔を合わせたくなかったので、目立たぬようこそこそと壁際へ移動する。
そうやって小さくなって、少し時間を潰す。もうすぐにTRIGGERがここへやって来るだろう。
あの3人は、私の存在に気付くだろうか。もし気付かれたら、第一声なんと声を掛けようか。そんなことを考えていた私を、何者かが呼ぶ。
しかも、本名で。
「エリ」
『!!』
呼んだのは、楽屋待機しているはずの虎於であった。彼を睨み付けながら、手招きされるがまま距離を詰める。