第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
メンバーがいる楽屋へと戻って来た。私は悠の腕からリードを貰い受け、強く引く。するとブチっという音を立て、それは首輪から別離した。
『これ、お返ししますね』
「似合ってたんだ。せっかくだから着けておけばいいのに」
リードを手渡した後、外した首輪も返却する。
『あと、悠に変な言葉を教えないでもらいたい』
「なんだ、怒ってるのか?落ち着けよ。あんなのはただの余興だろ?」
『その余興とやらのせいで、私の尊厳が失われるところだったのですが?』
私がいくら睨み付けても、虎於は飄々とした笑顔を返すだけだった。
彼を大人しくさせるのは、困難を極める。これなら、屏風に描かれた暴れ寅を躾ける方がまだ簡単だろう。
「なぁミナ…。トラの奴、ハルに一体なに教えたんだ?」ひそ
「さぁ。ですが、なんとなくの検討は付きますけどね」
さて。お遊びはここまでだ。頭を切り替えて仕事のことを考えなければ。
スケジュールは頭に入っている。現時刻から1時間ほど後、まずはTRIGGERのステージ収録が行われる。その少し後にŹOOĻの収録だ。
共演とは言っても、この2グループが顔を合わせトークなどを行う予定はない。ただ、同じ番組内で収録した物が流されるというだけだ。
だからどうか、このまま何事もなく今日が終わってくれれば良い。私は1人、そう願った。