第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
そろそろ帰ろう。そう悠に提案しようとしたのだが、彼は不敵に笑みを浮かべた。まさか、この期に及んでまだ起死回生の一手を繰り出そうというのだろうか。
「ふふん。九条 よく聞け。こいつはな、ただの犬じゃないんだぜ」
私は、はっとした。おそらく悠は、虎於から授けられた台詞を口にしようとしているのではないか。
「へぇ、そう。良かったね」
「そこまで気になるって言うなら、教えてやる」
「キミ、ボクの言葉をきちんと聞いてるの?」
「いいか!よく聞け!」
「だからキミの方がよく聞きなよ」
「春人はな…オレの、セイ奴隷だ!!」
性奴隷だ…!性奴隷だ…
楽屋内に、悠の卑猥な叫び声はエコーした。
『ちょ、悠!それはないでしょう!』
「な、なんだよ!喋るなよ!」
『いいえ喋ります。そんな言葉を貴方に教えたのは御堂さんですね?あの人、穢れ知らずの高校生に何て言葉を教えるんだ。大体、悠は性奴隷の意味を分かって言ってるんですか?』
「う、ううん」
『駄目でしょう。よく知りもしない言葉を軽々しく使ったりしたら。相手がTRIGGERだから良かったものの…
ほら、帰りますよ。ここまですればもう気が済んだでしょう』
「わ、分かった。な、なぁ春人。怒った…?怒ったのか?」
私は虎於への怒りでTRIGGERに挨拶するのも忘れ、悠を連れ立って楽屋を後にした。
「…あいつ、大丈夫なのかよ」
「了もそうだけど、ŹOOĻの子達からも酷い扱いを受けてるのか…」
「大丈夫だよ。さっきの様子、2人も見たでしょ。本質的なところでは、ご主人様をやってるのはプロデューサーの方みたいだし。
それに、ファーストネームで呼び合ってた」
「あ、そういやそうだな」
「ははっ。俺達の時は、そうなるまでにもっと時間が掛かったのにね」
「うん。上手く距離を縮められてるみたい。
まぁ、ちょっと…妬けるけどね」