第12章 会いたい。死ぬほど
4曲を歌い、踊りきった彼女のステージが終了した。俺はその場に天と龍之介を置き去りにして、ステージの脇へと走っていた。
そこにLioがいる事は分かっていた。スーツ姿の男達が総じてその場に集まっていたから。
帰り始めた客達の波の流れに逆らって、俺は彼女の元に向かう。
会いに行ったって、向こうは俺の事を覚えていないかもしれない。彼女にとって俺は 半年前にほんの少し時間を共にしただけの男に過ぎない。
でも、それでも良い。直接会って言いたかった。Lioに告げたい言葉が今すぐにでも口から溢れてしまいそう。
最高のステージだった。感動した。俺の事を覚えているか?今度2人で会いたい。メジャーデビューするのはいつか。もし事務所がまだ決まっていないのなら うちはどうか。
いや、どれも違うな。俺が彼女に1番に告げないといけない言葉は…
“ 好きだ ”
これしかない。これが、今1番大きく俺の胸中を支配している 素直な気持ち。
しかし。
ステージの袖に到着したものの、俺は結局 彼女には話しかけられなかった。
Lioは既に、多くのスカウトマンに取り囲まれていたからだ。会話の内容までは聞こえないが、どうやら各社が彼女を取り合っているらしい。
各事務所、契約に漕ぎ着けたくて必死なようだ。部外者の俺が入っていける雰囲気ではない。
このまま突っ込めば、彼女の仕事の邪魔をしてしまうのは明白だった。