第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
「お、おい!春人!!お前、何やらされてんだ!」
『くぅん』
「駄目だ!目が死んでやがる!考えることを諦めた時のこいつの顔だ!」
私の口からは情報を引き出せないと悟った楽は、矛先を悠の方に向けた。
「おい、お前。たしか亥清悠って言ったな。うちのプロデューサーに、何させてくれてんだよ」
「ふん!今こいつは、ŹOOĻのマネージャーだ!どうだ九条!悔しいか?羨ましいか!?」
鼻息を荒くする悠は、やはり天にしか興味がない様子。しかしその天は、なんとも涼しい顔だ。冷静な表情を崩したのは、私が入室したほんの束の間。やはり、肝の座り方が普通ではない。
そんな彼は、悠の隣をすり抜け、私の目前までやってきた。そして、相変わらずの凜とした声で こう言うのだ。
「…おて」
『ワン』
条件反射で、私は差し出された手に拳を乗せる。
「ふふ。ボクも犬は好きだよ。それにこの子。ボクにとても懐いてるみたい」
「…はっ!こ、コラこの駄犬!!誰にでも尻尾振ってんなよ馬鹿!勝手に懐くな!」
もし私に尻尾があったなら、頭を撫でられる嬉しさに、ぶんぶんと激しく振り乱していただろう。
面白くない悠は、リードを引っ張って私と天の仲を引き裂いた。
『きゃいん』
「あぁっ!雑に扱わないで…!」
しゅんと眉を下げてしまった龍之介が、私に駆け寄る。
それにしても、天のアドリブ力には恐れ入る。この分では、悠が口喧嘩で彼に勝てる日は来ないだろう。