第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
いよいよ、TRIGGERの楽屋に辿り着いた。扉を前に、悠は私に追加注文を言い付ける。
「いいか?お前はオレの犬なんだからな。何を言われても、ワンしか言うなよ」
『……ワン』
姉鷺に目撃されたことで、逆に覚悟が固まったような気さえする。もう、どうにでもなれ。そんな心持ちだ。
自分が呼ぶまで、ここで待機だと扉の前に立たされる。ご主人様からの、待てだ。大人しく忠犬を演じるとしよう。
悠は、ノックもすることなく扉の隙間から身体を滑り込ませる。私達の間に距離が出来た為、弛んでいたリードがピンと張る。
扉は隙間が開いている為、耳を澄ませば室内から声が聞こえる。突如として現れた悠に、TRIGGERは驚いているようだ。
「び…っくりした。何だ、いきなり…」
「あ、もしかして挨拶に来てくれたのかな?」
「そんなわけないでしょ。さっき、ボクにあれだけイジメられたんだから。それより、その紐…外に伸びているようだけど、何?」
よくぞ訊いてくれました、と言わんばかりに悠は声を張る。
「九条天!さっきはよくも言いたい放題言ってくれたな。お礼に、良いもん見せてやるよ」
ピン、ピンと、リードが引かれる。どうやら出番のようだ。私は一切の抵抗を見せることなく、楽屋へと入室を果たす。
あんぐりと、口を開けて私に釘付けになるTRIGGERメンバー。腰に手を当て胸を張り、したり顔の悠。
まず最初に、龍之介がよろよろと私に近付いてくる。
「春人…く、ん?これは…一体」
『ワン』
額に右手の甲を当てて、ふらぁ とよろめく龍之介。どうやら、彼には刺激が強かったようだ。