第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
うふふ。あはは。と、私と巳波は互いに冷笑を浮かべていた。その様子に、悠とトウマは身体をふるふると震わせている。
そこへ、楽屋に来てからずっと黙り込んでいた虎於が話す。悪巧みをしていそうな、口元で。
「巳波、良い案じゃねぇか。せっかくだ。俺も手を貸してやるか」
言うが早いか、虎於は自らの鞄から何やら小物を取り出した。私を含む4人は、彼の手元に注目する。そこにあったのは、どこからどう見ても…
「なに…これ。首輪と…リード?」
「あぁ、正解だ悠。これを、こうして…」
呆然とする私の首元に、虎於は首輪を装着する。赤い合皮に、金ピカのスタッズ。見れば見るほど、趣味ではない。
さらに虎於は、首輪にリードを繋ぐと、持ち手を悠に握らせた。そして満足げな笑顔で言う。
「よし。行ってこい!」
「お、おう!」
『いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。説明を、説明を求めます』
「とてもお似合いですよ。きっとTRIGGERの皆さんも、あなたのその姿に感涙すると思います」
「っていうか俺は、トラがいつもこれを持ち歩いてるのかって方が気になるわ…」
「ありがとう虎於!へへっ、九条が地団駄踏んで悔しがる姿が目に浮かぶぜ!」
『え、嘘でしょう。もしかしてこのままの姿でTRIGGERの楽屋に?』
私が少しでも抵抗しようものなら、悠はリードを引っ張った。発案者の巳波、協力者の虎於、傍観者のトウマは、揃って行ってらっしゃいと手を振った。
「あぁそうだ。悠、ちょっと耳を貸せ」
「ん?なに、虎於」
「俺が、奴らを最高に不快にさせる台詞を伝授してやるよ」
虎於は悠に、その台詞とやらを耳打ちしている。
ここで本気の抵抗を見せ、彼らの機嫌を損ねても厄介だ。なに、この程度の悪ふざけに付き合う程度、了の嫌がらせに比べたら訳はない。
と 自分に言い聞かせて、私はご主人様に続いて部屋を出た。