第97章 諦める理由にはならねぇだろ?
楽屋へ入るなり、私は一番近くにあった椅子 目掛け倒れ込むようにして座った。アイドルよりも先に腰を下ろすなど、初の出来事かもしれない。
それを横目に、巳波が顎に手を当て嘆くように告げた。
「3戦2負1分。と、言ったところでしょうか?情け無い結果ですねぇ」
え?俺達戦ってたの?と、トウマ。
虎於はあからさまに不機嫌そうなオーラを放っており、口を開かない。
取り乱したのは、悠だ。
「悔しい!悔しい悔しい!!九条の奴に馬鹿にされた!!なんであいつ、あんな性格悪いの!?」
『いやいや。天は色んな人から、良い性格してるね。って言われてましたよ』
「皮肉じゃん!ほんとに性格良い奴に、それって絶対言わねぇから!」
『悠は、皮肉がきちんと通じる子なのですねぇ』
それにしても。喧嘩さえ売らなければ、あんなにも人畜無害な男はいないと思うのだが。まぁ裏を返せば、一度敵認定されたら最後、今の悠のように苦しめられてしまうわけだが。
ギリギリと親指の爪を噛んで、悠は助言を乞う。
「なぁ!なんか、良い方法ないわけ!?あの九条に、ぎゃふんって言わせるような奴!」
「ははっ。ぎゃふんって、今の高校生でも使うんだな!」
「トウマはちょっと黙ってて!」
「…ぎゃふん」
悠とトウマのコントに、巳波が平然と割って入る。
「ふふ。簡単です。九条さんは、彼のことが大好きなんですよ?せいぜい、自慢してやれば良いんです。きっと、地団駄を踏んで悔しがる姿が拝めますから」
「九条が…地団駄…!!」
私は、目をキラキラ輝かせる悠から、巳波の方へ視線を移して告げる。
『棗さんって、良い性格してますよね』
「さっきのお話の流れで、よくそれを面と向かって言えますね」