第96章 やることなすこと滅茶苦茶じゃん!
「悲しい記憶。辛い過去。それを笑って話せる人が、弱いだなんて私には思えません。相手を恨むことをやめ、いま前を見て歩いている。そんな芯の強い彼には、尊敬の念すら抱きます」
『はは。いや、一織さん。それは良く言い過ぎです。たしかに、乗り越えたいとは常々思っていますよ。でもやっぱり、実際に九条を前にすると、手は震えるし汗は止まらないしトイレにだって行きたくなります』
「中崎さん…九条のことめっちゃ嫌いじゃん」
『いや、嫌いとは少し違いますね。大の苦手ではありますけど』
この言葉に、オレと環は顔を見合わせる。昨日、2人で話していた疑問が再燃したからだ。
嫌いと苦手。この2つの違いは何なのだろう。
「私にも分かる気がします。苦手と嫌いは、違いますよね」
「いおりんには、分かんの?なんかずりぃ」
『彼には、沢山のことを教えてもらいました。別れは酷いものでしたが、彼からの知識が私の礎となっていることもまた事実。九条が居なければ、今の私はなかったかもしれないんです。そんな彼を、どうしても嫌いにはなれないんです』
はっとした。春人の言葉は、オレにも当てはまる。
九条に見限られたからといって、培われた物が消えて無くなるわけではないのだ。
自らが努力して手に入れた力は、今も間違いなくオレの中に息づいている。
『悠』
「!!」
『私の考えを、悠に押し付けることはしません。ただ、これだけは覚えていて欲しい。
自分のことを、もういらないと見限った憎い相手。悠がそんな人に対して行使できる最大の報復は、何だと思いますか?』
「……」
『相手を憎むこと。傷付けること。そんなことじゃ、ありません。答えは、こうです。
貴方自身が、目一杯 幸せになること』
春人は、澄んだ瞳でオレを見つめ続ける。
『お手伝いします。だから、幸せになりましょうね。仲間と…ŹOOĻと一緒に』