第96章 やることなすこと滅茶苦茶じゃん!
「違うだろ…」
ギリギリ絞り出した、小さい声。この騒がしい中、そんなものは簡単に掻き消されてしまう。実際、誰一人としてオレの声なんかに気付きはしない。
と、思っていたのに。
『亥清さん?』
「っ!!」
どうして。
どうして こいつだけは、容易くオレの声を掬い上げるのだ。
大人なんて、皆んな汚くて嫌いだ。オレを子供扱いして、話なんか聞きやしない。
聴き触りの良いことばかり言って、平気で嘘を吐く。
でも、オレはもう気付き始めていた。
こいつは、違うんじゃないか。他の大多数の大人とは、違うんじゃないかって。
「春人」
『!!』
オレが名前を呼ぶと、春人はブルーの瞳を大きく見開いた。
「お、お前は、TRIGGERのプロデューサーじゃ、ないだろ!
春人は、オレ達の…ŹOOĻのマネージャーだろ!!」
教室内が、シンとなる。あれだけ騒いでいた女子も。口煩い一織も、いつも鬱陶しいくらい煩い環ですら、黙りこくる。ただ驚き、オレの方に視線を集めるだけ。
あ、やっぱり言わなけりゃ良かった。後悔先に立たず状態のオレだったが、突如として強く腕を引かれる。
「っ!?」
『亥清さん…!』
春人の腕の中に、閉じ込められたのだ。力任せに、ぎゅうっと抱き締められる。完全なる不意打ちに、オレはただそこで目を白黒させることしか出来なかった。
『私は、嬉しいです。やっと…やっと…!
亥清さんが…デレた!!』
「……は?」
『それで気付いたんですが、私って割とツンデレが好みのようです。性癖に刺さると言うか…こう、ズキュンと来ました。もう少しこうやって、ぎゅっとしてて良いです?』
「い…いいわけねぇだろ!!馬鹿!!嫌いだ!やっぱりオレは、お前なんか、大っっ嫌いだ!!」