第12章 会いたい。死ぬほど
「うわ…凄い。あの店の地下に、こんな空間があったんだね」
龍之介の感想は、俺が抱いていたそれと同じだった。
キャパシティは150人くらいだろうか。その数字自体は大してズバ抜けたわけではないが。ここがバーの地下というから驚きだ。
「…ねぇ楽。今日ステージに立つその人って、インディーズって言ってたよね」
「あぁ。たしかそうだ」
少し離れた場所に立つ男を見ながら、天は続ける。
「あの人…大手芸能プロの関係者だよ。雑誌でインタビュー記事を読んだ事がある」
「そういえば、ちらほら ライブハウスに来るには似つかわしくない服装をした人がいるよね…。
もしかして、スカウトマンかな」
「さぁ。そこまでは分からないけど…。芸能関係の人だとは思う」
言われてみれば、ラフな服装をした人間の中に 異様にかっちりとしたスーツに身を包んでいる奴が紛れている。
どうしてインディーズのアイドルなんかを観るために、スカウトマンがわざわざこんな狭い箱まで足を運ぶ?
MAKAがあの女をスムーズにメジャーデビューさせる為に、手を貸してやったのか?
それとも…まさか、セルフプロデュースでもしてるっていうのか。
俺の疑問は解決しないまま、会場の電気がふっと弱くなる。代わりにステージ上のライトが煌々と輝き出した。
半年振りに見る彼女は、信じられないぐらい眩しい笑顔で こちらに向かって手を振っていた。
正直言って、かなり ぐっと来た。
だって俺は、あいつの不貞腐れたような 笑顔とは程遠い表情しか知らなかったから。
あぁ。これが世に言う、ギャップにやられる。という奴かもしれない。なんて考える。
とにかくだ。まるで、別人ぐらい 可愛いと思った。