第96章 やることなすこと滅茶苦茶じゃん!
やって来たのは、局内の喫茶店。理由はどうあれ、悠がこうして茶店に付き合ってくれるとは。喜びを禁じ得ない。
『お腹は空いていませんか?サンドイッチとか食べます?飲み物はオレンジジュースだけで良いのですか?パフェとかもありますよ』
「なんでテンション上がってんのか意味わかんない」
冷ややかな目をこちらに向けて、悠はストローを吸った。
注文した紅茶とケーキが出揃ってから、私はいよいよ内容を口にする。
『了…さんや御堂さん、棗さんは知っているのですが、私は元々アイドルを目指していました』
「えっ」
『そして、九条に教えを乞うていた時期もあったんです。彼には、主に舞台演出関係のことを教えてもらいました』
「そう…なんだ。
ん?でも、あいつさっきアンタのこと知らないって感じじゃなかった?」
『えーと…まぁ、私の見た目がかなり当時とは違っているから気付かなかったんでしょう。とにかく。
九条は私を、何でも熟せる完璧なアイドルにするつもりだったようです。作詞作曲、歌唱やダンス。そしてプロデュースや演出面。これらを一人でやってのけるアイドルは、未だ嘗て存在していませんでしたから』
「…完璧なアイドル、ね。ふん。いかにもアイツが言いそうなことだな」
『まぁでも色々あって、私はアイドルの道を諦めないといけなくなりました。
そうなれば残されるは、作曲家かピアニストかダンサーか。それとも九条と同じ舞台演出家か。今から思えば、色んな道があったんですよね。
しかし彼は、どんな道も私に示めそうとはしませんでした。
はは…要は、見限られちゃったんですよね』
ずっと耳をこちらに傾けてくれていた悠だったが、私がそれを告げた途端に瞳が大きく揺らいだ。
その反応を見て、私は確信する。
やはり、彼も九条に、見限られた。
悠と私は、同じなのだ。