第95章 《閑話》とあるトップアイドルの息抜き?
「ほらほらエリちゃん、真っ直ぐ歩いて。随分と足元がチドってますぞ?」
『ふふふ。そう言う百だって、まるで生まれたての子鹿ちゃんみたいな足取りですよ?』
肩を組んで、互いの体を互いが支える。2人してふざけていたはずなのだが、ふとした瞬間、百の声のトーンが真剣味を帯びた。
「…ねぇ。エリちゃん」
『んん?なぁに?』
「オレ、エリちゃんの気持ち分かるような気がするんだ」
その痛切な声に弾かれるように、私は顔を横向ける。そこには、今にも泣き出してしまいそうな顔で笑う百がいた。
「ŹOOĻの子達に腹が立っちゃった理由、それって多分…悔しかったんだよね。羨ましかったんだよね」
『!!』
「オレにもあったんだ、そういうの。
怪我でサッカーやめた後、練習サボってる奴とか見ちゃうとさ…
おい!お前には健康な脚があるくせに、何で真剣にやらねぇんだよ!サボるぐらいなら、その怪我してない脚オレによこせよ!こっちは、本気でやりたくても出来ないのに!
…って。悔しくて、腹が立って、なんかこう、叫び出したい気持ち。
だからきっと、君も同じなんじゃないかなって思って。歌えるくせに、本気で歌う事をしないŹOOĻを見て、やるせない気持ちになったんじゃない?」
私は断じて、泣き上戸ではない。でも、目の前が霞んでしまう。ここがもしも、トイレの前でなかったら泣いてしまっていたかもしれない。
百は、凄い。自分でも気付いていなかった私の気持ちを、いとも簡単に言い当ててしまうのだから。
私は顔を上向けて、必死に涙を目の奥に押し込めた。