第95章 《閑話》とあるトップアイドルの息抜き?
「はい、百くん。赤でいい?」
「はわわっ、バンさんにお酒注いでもらえるなんて…!こ、光栄です!」
「はは。相変わらずの恐縮っぷりだね。もっと楽にしてくれたら良いのに。あ、やっぱり最初はシャンパンにする?」
『私は赤ワインで!』
「エリはもう少し間を置いてからだ」
『えー。せっかくの乾杯を、水でしろって?』
乾杯のタイミングで、また飲めると高を括っていたというのに。万理からのオーケーは出なかった。
膨れる私に、千が新しいグラスを差し出した。
「はい、エリちゃん。ケチな万の代わりに、僕が注いであげる。赤ワインでいいんだよね」
『わーい ありがとう!千は優しいなぁ。ケチな万理とは大違い』
「はぁ…。千、あまりエリを甘やかすなよ」
「バ、バンさんは、ケチなんかじゃありません!!ですよね!バンさん!」
「あ、あはは…。ありがとう、百くん」
かなりバタついたが、ようやく全員の手元に飲み物が行き渡る。百と千はシャンパン。私と万理は赤ワイン。それぞれのグラスを、カチンと軽く合わせる。
各々がそれらを一口ずつ飲んだところで、気まぐれサラダを含めた料理をいくつか注文する。肴を待っている間にも、会話は進んだ。
「百くん、随分と鞄が重そうだね。ひょっとして、商談だったのかな」
「さすがバンさん!素晴らしい洞察力です!」
「はは。ありがとう」
目を眩く輝かせ、万理を見つめる百。代わりに、千が続きを語る。
「近々、ライブをやろうと思って。箱を押さえに行ってたんだ。今までは おかりん達がやってくれてたけど。これからは、自分達のことは自分達でやらなきゃいけないから」
「…千」
「そんな顔するなよ。何も、ネガティブな意味で言ったんじゃないんだから。むしろ、懐かしいんだ。
思い出すよ。昔もこうやって、自分達の足で箱を探してたなって」
そう語る千の目は、確かに暗いものではなかった。きっと彼の言葉は本心なのだろう。