第94章 ほら、解決だろ
巳波は、余裕たっぷり笑みを浮かべながら。虎於は、興味がなさそうに。悠は、たっぷりと間を置いて。トウマは、本心を隠すようにして。
このように 反応こそ様々だったが、彼らが口にした言葉は同じものであった。
「べつに」
本気なのか。あるいは偽りか。今の段階では私に知る術はない。
ただ ひとつ分かるのは、そんなアイドルがこの世に存在してはいけないこと。
『だから、レッスンに対しても不真面目なんですね』
「口パクという選択をしたことが、よほど あなたの気に障ったようで」
『当たり前でしょう』
「なんだよ、そんなことでまだ怒ってるのか?可愛い奴だな」
虎於の放った、そんなこと。というワードにカチンと来たのは、この際置いておこう。いちいち拾い上げていては、時間がいくらあっても足りない。
「…下らない。さっきの質問も、下らない。
オレ達は、歌も踊りも大好きだ!アイドルって職業に誇りを持ってる!
あんたは、こう言って欲しかったんだろ?でも、残念だったな。そんな感情、オレ達は誰も持ち合わせてないから。
…ふん。どうだ?自分が望んだ答えじゃなくて、ガッカリしたかよ。嫌になっただろ。それで…オレのこと、さっさと見切りをつけるのか?あんたも」
悠の、心の奥にある扉が垣間見えた気がした。その扉は固く閉ざされ、鍵が閉まっているけれど。剥き出しにした強い感情に隠れて、ようやく彼という男を知る手掛かりを見つけられた。
過去に、何かあったのだろうか。誰か大切な人に、見限られた経験でもあるというのか。
片鱗を見つけられたとは言え、この場で広げられる話ではないようだ。
今のところは、見え隠れした扉から距離を取ることにした。