第94章 ほら、解決だろ
案の定、そう長い時間を置かずして彼らは楽屋へと戻って来た。彼ら4人を引き連れて、地下駐車場へと向かう。
社用車に着くなり、私は布に包んだ大荷物をトランクにしまった。それを見ていた虎於が、首を傾げる。
「なんだ?その荷物は。来た時はそんなもの持ってなかっただろ」
『パイプ椅子です』
「パイプ椅子?どうしてそんなものを…」
『穴が空いてしまったので。これは持ち帰り、後日 新しいものを局に返します』
トウマと悠は2人して顔を引きつらせて、ごくりと喉を鳴らす。
「……」
(壊したのか…!)
「……」
(こ、壊したんだ…!)
巳波は呆れた声色で笑う。
「ふふ。物に当たるなんて、まるで子供のようですね」
『それに関して言えば、釈明の余地もありません』
備品を破壊してしまい、反省はしている。きちんと実費で弁償させてもらうので、どうか許して欲しいところである。
怒りは、冷静な判断力を奪う。だから、自分が憤っているという自覚があるのなら、大切な話し合いはすべきでない。その観点からすると、今ならば話をするタイミングとして間違っていないだろう。
『お伺いしても良いですか?』
ハンドルを握り、前を見たままで問い掛ける。返って来たのは沈黙だったが、訊くなとは言われなかったので続けることにした。
『皆さんは、歌やダンスが好きではないのですか?
アイドルのこと、好きじゃないんですか』