第94章 ほら、解決だろ
まさか、私とŹOOĻの意見が割れるとは思っていなかったのだろう。スタッフは、どちらの案を受け入れるべきなのか迷っている。
そんな彼に、虎於が携帯電話を差し出した。
「うちの社長と繋がってる。口パクでいいそうだ。後は直接、社長と話してくれ」
「!!は、はい。分かりました…」
こちらを申し訳なさそうに見てから、彼はそれを受け取る。私も、もうさすがに こちらに勝機がないことを悟った。
様々な感情が渦巻く私に、巳波が言う。
「楽屋へお帰りになるなら、おひとりで どうぞ」
何も言葉を返さず、私は彼らに背を向けた。
背後からは、電話で繰り返し謝罪するスタッフの声が聞こえる。
きっとすぐに、収録は行われるのだろう。声を一切出すことなく、アイドルがステージに上がるのだ。
そんな現場を、私は絶対に見たくない。
「…トウマ」
「なんだよ」
「あいつ さっき、本気で怒ってた」
「…そうだな」
「どうでもいいって思ってるアイドルが、口パクしたってべつに怒らないだろ。
なぁ。あいつ、さっき楽屋ではあんなこと言ってたけど、本当はオレらのこと…本気で考えてるんじゃ」
「だから、何だってんだよ」
「いや…べつに。ただ、そうかなって思っただけで」
「誰が何を言おうが、どれだけ真剣にŹOOĻを思っていようが関係ない。
俺は、もうやめたんだ。本気でアイドルに向き合うことは」
「……分かってる。そんなの、オレだって…分かってる」