第94章 ほら、解決だろ
パフォーマーである虎於が、ダンスのレッスンに出ずしてどうするのだ。
彼が到着するまでは、3人でのレッスンとなるが仕方がない。しかも今日は、新曲の振り付けお披露目である。そんな日に、メンバー全員が揃っていないなど本来はありえないのだが。
振り付け師が、実際にそれぞれのパートを踊ってみせる。初めて見る振りだというのに、それなりに熟してくるから驚きだ。やはり、彼らのセンスは眼を見張るものがある。これだけのポテンシャルを秘めておきながら、本気でやらないと言うのだから腹が立つ。
私の気持ちとは裏腹に。結局、虎於がレッスン室に現れることはなかった。
彼らふうの言い方で表すと、そこそこの力で頑張った3人。定刻になると、各々 現地解散していった。
顔を下向ける私に、振り付け師が声をかける。
「春人くん。もう分かったと思うけど、彼らにTRIGGERと同じものを求めるのは諦めた方がいいよ」
悲しい気持ちが胸に広がってしまって、どう言葉を返せば良いのか分からない。すると、彼は続けた。
「僕もプロだから、自分の仕事に手を抜いたりしない。彼らが本気じゃないからといって雑な振りを提供したり、レッスンで力を抜いたりするつもりはないけどね。
でも、あの子達が本気にならない限りは…最高のパフォーマンスは望めないと思う。
君も、プロだから思っちゃったんだよね。ŹOOĻなら、もしかしたら皆んなから望まれるアイドルになれるんじゃないかって。そんなŹOOĻの、手助けがしたいって」
『そう、願ってしまうのは…いけないことなのでしょうか』
「いけなくなんて、ないよ。でも、春人くんが頑張り過ぎてしんどくなっちゃう前に言っておくね。
もしも、彼らが大成できずに腐ってしまっても、それは春人くんが悪いからじゃない。まして、ŹOOĻが悪いわけでもない。
ただ…TRIGGERというアイドルが、特別だっただけだ」