第94章 ほら、解決だろ

私は携帯を耳に当て続けた。しかしコールは延々と続き、幾度となく留守番電話サービスに切り替わる。一体、いつになったら虎於は電話に出るのだろう。こうなったら、出るまでかけてやる。

そうしてる内に、悠の顔色が徐々にいつもの調子を取り戻していった。


「オレ、もう帰る。よく考えたら、べつにわざわざ集まってやる必要ねぇし。いつもみたいに個人練習でい」

『帰るな』


こちらに背を向けた悠の、襟を後ろから掴んで引く。彼が ぐぇ、と苦しそうな声をもらしたのと同時。ついに虎於が電話口に出た。


《 なんだよ。随分と激しいラブコールじゃねぇか。どうした？そんなに俺の声が聞きたかっ 》

『今、どこで、何をしてるんですか』

《 そうやって、こっちの行動を全部知りたがる女って嫌いなんだが 》

『貴方と話していると、自分が違う時空に飛ばされたのかと思いますよ』


あまりに会話が噛み合わなくて、激しい頭痛に襲われる。


『貴方以外は、もう揃っているんです。後どれくらいで来られますか？』

《 そうか。だが俺はパスでいい 》

『…パス？』

《 あぁ。いつもみたいに、振付師が俺のパートを踊ったものを映像で渡してくれさえすりゃ、後はこっちで適当にやる 》

『…映像？ 適当に…やる？』

《 あんたは知らないかもしれないが、それが俺達のやり方ってわけだ。才能さえあれば、他の奴らみたいに労力と時間をかけて、馬鹿正直に集まって練習する必要はねぇからな 》

『なるほど。分かりました。言いたいことはそれだけですか？』

《 いや、待て。まだある。今日は何時頃に、あんたの身体は空く？迎えに行くから飯でも食いに連れてってやる 》

『いいからさっさと来い。馬鹿正直に労力と時間をかけたレッスンを始めるんだよ』


これ以上、彼の持論を聞いていては頭の何かがブチ切れてしまう。それを悟った私は、一方的に通話を終わらせた。

一部始終を聞いていた悠の顔色が、また少し青くなったようである。