第94章 ほら、解決だろ
深々と、肺の中の空気を全部 吐く。機密性の高いレッスン室に、その溜息は染み渡る。
今日の夜ご飯がピーマンのフルコースだから、溜息を吐いたわけではない。久し振りに会った彼らに、情け無い姿を晒してしまったからだ。あの、なんとも言えない3人の顔を思い出して、私はまた深い息を吐き出した。
「おい。あんた、さっきから溜息吐き過ぎだろ。な、なんか…あったのかよ」
『私の話を聞いてくれるんですか?やっぱり狗丸さんは、優しいですね』
「優しくねぇよ!やっぱり聞かねぇ!おまえの話なんか、どうでもいいわ!」
『了さんがね、ピーマンを持って私を追い掛けてくるんですよ。どうですか?恐ろしいでしょう?ついつい一本背負いしそうになる私の気持ち、分かってくれますよね?』
「お、おう…」
それにしても、もうすぐレッスンが始まるというのに、場にはトウマと巳波しか居ない。何度 携帯をチェックしても、残りのメンバーから遅れるという報告は入っていなかった。
私がここへ来てから、ようやく確保出来たレッスン時間。初めて彼らのダンスレッスンを見学出来るというのに、この集まりの悪さ。ついつい、TRIGGERだったらもうとっくに待機している。などと考えてしまう。
元恋人と今の恋人を比べてしまった時のような、変な罪悪感が募る。
「一応、言っておきますけど。私達なら、いつもこのような具合ですよ?
さすがに、生放送の現場の場合は遅れたりしないと思いますが、レッスンとなれば別ですから。来たり、来なかったり。そこは、各々の判断や気分で自由にやってます」
巳波が、あまりに当たり前のように言うものだから、余計に理解に手間取った。
おかしな主張をしているのが向こうだと確信してから、今度はトウマの方に視線を向ける。すると彼は、言ってのけた。
「…ミナの言う通りだ。俺達は、本気ってのはやめたんだ。本気で踊らないし、本気で歌うことも、もうしねぇ」