第94章 ほら、解決だろ
2人の様子を見ていた天が、再度 姉鷺に質問をする。
「業務引き継ぎの件で連絡を取ったりも、全くしてないんですか?」
「…まぁ、声を聞く限りは元気そうだったけど?」
「おい。なんで俺が訊いても相手にしなかったくせに、天の質問には答えるんだよ」
楽は不服そうに姉鷺を睨み付けた。すると彼は、あっ そうだ!と言って、落ち着けたばかりの腰を上げた。どうやら、やり残した事があるのを思い出したらしい。そして、また楽屋を出て行ってしまった。
本当にやるべき仕事を思い出して出て行ったのか。はたまた、楽に睨まれてここに居辛くなり出て行ったのかは分からない。
3人になった俺達は、誰からともなく溜息を吐く。そして口にするのは、勿論 彼女についてだ。
「また、色々と独りで抱え込んでないといいけどね。“ 助けて ” って、ボク達には言ってくれないから」
「だよな。思ったまま “ 辛い ” って、たまには言っちまえばいいのに」
「…もう “ 無理 ” だって、弱音吐いて欲しいよね。そういう言葉をいくら聞かされたって、絶対に幻滅なんてしないのにな」
助けて、辛い、無理。
そのどれもが、吐き出すにはエリにとってハードルが高いのかもしれない。距離が出来てしまった今では、尚のこと彼女は俺達に寄りかかることはしないだろう。
しかし出来ることなら、エリには頼って来て欲しい。仲間として、彼女を支えたい。それは、俺達3人の共通した願いであった。
静かな楽屋の扉が、ノックもなしに激しく開かれた。
なんとも荒々しい帰還だ。何かトラブルだろうか?と、そこに立っているであろう姉鷺に、俺達は目を向けた。
しかし。そこに居たのは、肩で息をする、春人であった。