第93章 選んだのは、こういう道だろ
『龍、でも…。私は、貴方達の足を引っ張りたくない。分かって』
「ごめん。俺は分かりたくもない。
別れない。別れてなんか、あげないから。好きだよ。君が、好きだ」
切なげに眉を寄せて、こちらを見つめる。哀しみ溢れるその顔を見ていると、心臓がぎゅっと収縮するようだった。
お気に入りのCMを降ろされた時より。私がツクモへ行くと告げた時より。悲しそうな表情をしていた。
「俺が傷付くかもしれないとか、誰かに迷惑をかけたくないとか。そんな理由で身を引けるほど、この気持ちは軽くないから…。だから、これからも俺はエリの隣にいる。
分かってもらえるまで、何度だって言う。好きだよ、君を 愛してるんだ」
龍之介は、遠慮がちに また私を引き寄せる。拒絶されることを恐れているのだろうか。抱き締めてくれる その腕は、いつもとは違って自信なさげだった。でも温かくて優しい、私が大好きな龍之介の腕だ。
『こんなに…面倒な女で、いいの?』
「そこも含めて、俺はエリがいい」
『狡い…。いつもは、好きとか愛してるって、あんまり言ってくれないくせに。こういうときは、沢山くれるんだね』
「君が俺の傍を離れていこうとするから。必死なんだよ。こう見えても…」
彼の胸に頬を寄せる。甘やかな体温が、私を溶かしていくみたいだ。こんな幸せを知ってしまえば、拒絶なんてもう出来るはずがない。
『じゃあ、もっと…欲しい』
「いいよ。エリ、好きだよ。どこにも行かないで」
『もっと、甘やかして』
そんな駄々にも、龍之介は全力で応えてくれる。髪に柔らかな感触が、何度も何度も降りてくる。
心がふわふわしてしまうような、キスを繰り返しながら彼は愛を囁いた。
「俺から、離れていかないでよ。ずっと、頑張ってるエリを1番近くで、見ていたい」
『龍…今度は髪じゃないところに、キスして』
そう言って私が顔を上向けると、龍之介はふわりと笑う。そして、唇に口付けをくれるのだ。