第93章 選んだのは、こういう道だろ
『サンダードライの案件がツクモに移ったのは、私のせい、なの。私がこの足で企業に出向いて、私がこの口でプレゼンした!
龍之介よりも、うちのタレントの方が適任だって。
……ごめ、ん…。龍、私っ、ごめん、ごめんなさい…っ』
子供みたいに ただ平謝りする私を、龍之介は抱き竦めた。力強く、ぎゅっと体を抱き締めて、彼は私を優しく宥める。泣き噦る赤子にするように、背中をとんとんと叩きながら。
「何も、謝らなくていいんだよ。君は、君の仕事をしただけだ。了みたいに、卑劣な手を使ったわけじゃないんだろ?」
『うん…でも』
「じゃあ、何も間違ってない。サンダードライの件は、確かに残念で悔しくもあるけどね。俺、意外とあのCM気に入ってたから」
『うん…知ってる』
「でも、企業の人に俺を選んでもらえなかった。だからこれは、俺の努力が足りなかった結果だよ」
『違う!』
ずっと龍之介の腕の中で大人しくしていた私だったが、これには大きく異を唱えた。そっと胸板を押して、顔を上向ける。龍之介は、丸い目をしてこちらを見下げた。
『キャストが入れ替わったのは…、私の高いプレゼン能力があったからだよ!』
「ふふっ、それだけ?」
『…まぁ…了が作った資料も、良い出来ではあったけど』
「あとは?」
『…御堂虎於の直接的なアピールも、まぁ貢献したのかもしれないけどさ』
言葉尻が弱まるのを見て、クスクスと笑う龍之介。そして、また私を きゅっと抱き締めた。頭に頬を擦り寄せて、切なげな声で彼は言う。
「じゃあ、3人の力が合わさった結果だ。
そういうのを聞くと、羨ましいなって思っちゃうよ。やっぱり俺も、君と一緒に仕事がしたいんだなって実感する」