第93章 選んだのは、こういう道だろ
『ち、ちが、間違えちゃった、ごめん!もうちょっと待ってて、すぐちゃんと使えるバスタオル持って来る』
「ううん、いいんだ。いま君が手に持ってる奴で良いから、頂戴?それで、大丈夫だから」
その優しい声を聞いた途端に、私は悟った。彼が、もう例の件を知っているのだと。私が持って来てしまったものが、サンダードライのバスタオルであることも。
私は そっと、そのタオルを手渡した。
それから逃げ出すように脱衣所を後にして、リビングで頭を抱えた。彼に対し、なんて無神経な行動を取ってしまったのだろう。
勝手に自爆して、勝手に後悔している私。やがて、お風呂上がりの龍之介が帰って来た。そして、相変わらずの人懐こい笑顔で口を開いた。
「エリ。改めて、おかえり。今日はどうだった?何か辛いことはなかった?」
『…何事も、なく。普通に、働いたよ』
「そっか。それなら良かった。安心した」
どうして自分も辛いことがあった日に、他者に対して こうも優しい言葉を掛けられるのだろう。
私は、大好きなはずの龍之介の笑顔を直視出来なかった。
『嘘、吐いた』
「え?」
『何事もなく…なんて、なかった』
彼の顔を直視出来ない理由なら、痛いほど分かっている。それは、私が龍之介に対して罪悪感を持っているから。
だから、大好きな笑顔も優しい言葉も、真正面から受け取ることが出来ないのだ。
「何か、あったのか?エリ、大丈」
『大丈夫じゃなかったのは、龍の方でしょ。大切なCMから降ろされて、なんでそんな、平気な顔してるの?絶対、悲しかったはずなのに』
私は、私が思っていた以上に、危ういところまで来ていたのかもしれない。自分の気持ちを、上手く制御出来ない。伝えなくても良い言葉は溢れ出して、もう止められない。