第93章 選んだのは、こういう道だろ
ぐちゃぐちゃに散らかった頭の中。そんな状態で我が家へと帰宅する。リビングには、誰もいない。いつもすぐに飛んでくる、おかえりという言葉もない。代わりに、浴室からは水音がした。
どうやら龍之介はシャワー中らしい。私は、音のする方へ向かう。そして、扉越しに声を掛けた。
『ただいま、龍』
「あっ、おかえりエリ。ごめん、お風呂入りたいよね!すぐ出るから」
『大丈夫、手を洗いに来ただけだから。ゆっくり入って』
脱衣所に面した洗面台へ、手を洗いに来た。勿論それも嘘ではない。しかしここへ来たもっと大きな理由は、龍之介の様子が知りたかったからだ。
落ち込んでいる様子は、見受けられなかった。もしかすると、CMの件はまだ彼の耳に入っていないのかもしれない。
いずれ知ることになる現実ではあるが、それでも私は安堵した。龍之介は、いつも通りの穏やかな声だったから。
スーツを脱いで、お茶を飲み、さぁテレビでも点けようか。そう思った時、龍之介から声が掛かる。
「ごめん!実は脱衣所にバスタオル持ってくるの忘れちゃったんだ。悪いけど、エリ 取ってくれる?」
『うん!すぐ持っていくから』
私も彼に倣い、少し大きな声で受け答えをする。そしてランドリーラックの引き出しの、1番上にあったバスタオルを手に取った。
おまたせ と声を掛けると、龍之介は浴室内から腕だけを出す。
「ありがとう。帰って来て早々 使っちゃってごめんね」
『いえいえ、これくらいの…こ、と』
「エリ?」
私は、彼にバスタオルを手渡すのを躊躇した。どうして、よりにもよって今これを持って来てしまったのか。
私の手にあったのは、サンダードライのバスタオルであった。