第93章 選んだのは、こういう道だろ
翌日。企業の方から早々に連絡があった。サンダードライの件、ぜひ虎於を使わせてくれとのこと。
複雑だ。なんて言葉で、私の気持ちを言い表すことなど出来ない。それでも、上に報告を上げないわけにはいかなかった。
了へ結果を告げると、彼は意気揚々と受話器を取った。
どこへかけるのだろう。そう思ったのは、一瞬だった。内容を聞いていれば、そんなのはすぐに分かる。
電話の相手は、八乙女社長だ。了は、勝ち誇った様子で長々と話をする。しかし、そんな長話に宗助は付き合ってくれなかったのだろう。向こうから電話を切られてしまったらしい。
それでも、彼は満足そうだった。
きっと、今日の内に龍之介にも話は伝わるだろう。きっと彼は、悲しむ。そして、悲しませるのは紛れもなく私なのだ。
どんな顔をして龍之介に会えば良いか、分からない。
「エリ。うちに来るか?」
『は?どうして私が、御堂さんの家に行かなくてはならないのですか』
「あんたが、家に帰りたくないって顔をしてたからだ」
『… していません』
「ほら。いま、間があった。図星なんだろ?」
帰りたくないとは思っていないが、帰り辛いとは思っていた。虎於が見事に、その隙を突いてきたことに驚きを隠せない。
どれだけ人の表情を窺って生きて来れば、その些細な変化に気付ける人間が出来上がるのだろう。お気楽そうに見えても、この男はやはり御曹司だ。普通の生き方をして来ていない。
「会いたくないんだろ?龍之介に」
『どうして私が家に帰ると、彼に会うことになるのか。意味が分かりません』
「とぼけても無駄だ。もうとっくに知ってるからな。あんたと十龍之介は、恋人関係なんだろ?」