第93章 選んだのは、こういう道だろ
了 手製の資料は、恐ろしくよく出来ていた。いくら嫌いな相手であろうと、この有能さは認めざるを得ない。
数時間後。私は虎於と共に、了がセッティングした会合の場に着いていた。そして、用意して来た言葉を淡々と並べる。
『確かに今現時点では、TRIGGERに知名度では劣っているかもしれません。ですが、それはすぐ引っ繰り返ります。それも、ごく近い将来の話であると —— 』
席に着いて、いま話しているのは誰だ?
まるで、誰かが話しているのを俯瞰で見ている気分だ。しかし、熱弁を振るっているのは私。間違いなく私なのだ。
『ŹOOĻは、御堂は、今がまさに旬!御社の経営理念や商品のイメージともぴったりと合うはずで —— 』
今でも、これが正解なのかどうか分からない。一瞬でも気を抜くと、自分を疑いそうになってしまう。
いまの私の行動は、誰の為にある?私がここに居るのは、何の為だった?
「では中崎さんは、TRIGGERの十さんよりも、御社の御堂さんの方が優れていると。CMに起用するのが相応しいと、そう仰るのですね?」
『はい』
頭が、おかしくなりそうだ。
「俺を選んで、後悔はさせない。最高にエレガントで、顧客の購買意欲を唆(そそ)るCMを、あんたらに提供してみせる。
むしろ今ここで判を突かなけりゃ、あんたらは後悔することになるだろうな」
虎於は、色気たっぷりに言ってみせた。どうやから彼の色香は、おじさんにも余裕で通用するらしい。企業側の人間はうっとりとして彼に魅入ってした。
この場での即決は避けた相手方だったが、十中八九、起用タレントは変更されるだろう。
変更、されてしまうだろう。