第93章 選んだのは、こういう道だろ
べつに気を許したとか、油断したとか、そういうわけではない。
ただ、この日の集まりで、ほんの少しだけ彼らを知れた。打ち解けられた。
ただ、私が勝手にそう感じただけに過ぎない。
心配顔で、私の帰りを待っていた龍之介にも伝えた。なんとかやっていけそうだと。
寂しくないと言えば嘘になるが、それでも頑張れそうだ。TRIGGERや皆んなの為、デビューしたばかりのŹOOĻの為、そして自分自身の為に、私はツクモでやれるだけのことをやる。
そんな私に翌朝、了は告げた。
「はい。君の、ツクモでの最初のお仕事はこれだ!
虎於に、サンダードライのCM 取ってきて」
「サンダードライか。確かいま起用されてるのは…
あぁ、十龍之介だな」
「ふふ。相変わらず、やり方がエゲツないですね。了さんは」
頭の芯を、不意打ちで殴られたような衝撃を受けた。
了ならば、こういう手を打ってくると分かっていたのに。覚悟が足りていなかったのだろうか。そんな情けない自分に腹が立つ。
「はい。こっちが営業資料で〜これが提案書。わざわざ作っておいてあげたよ?僕はなんて優しいんだ!!じゃあ頑張ってねぇ。
君なら、卑怯な手段なんか使わないで、CM契約の1本や2本…余裕だろ?」
良い報告 “ だけ ” を、楽しみに待ってるよ。
了は、虎於と書類だけを部屋に残し、去って行った。
「ご愁傷様だったな。分かってると思うが、わざとプレゼン手を抜いたりするなよ?それこそ、あの人の逆鱗に触れちまうだろ」
『分かってます…。分かってますよ!』
資料に目を通したい。そういう名目で、私は虎於も部屋から追い出した。