第92章 これでも頑張ったんだよ？

私は視線だけを、横へ泳がせた。すると彼は、諦めたように天を仰ぐ。


『ごめん。怒った？いつもこうだもんね。後で話す。まだ話せない。そんなのばっかりで。龍には、悪いと思ってる』

「怒ってないよ。エリがTRIGGER関係で俺を贔屓しないのは知ってるしね。それで腹が立つなら、俺は君と恋人やってない」


龍之介の笑顔を見て、彼が本当に怒ってないのだと知る。
なんとも、出来た彼氏だ。本心で言えば、気になって仕方がないだろう。すぐに何が起きたのか知りたいだろうに。
それでも、今すぐに話せと せがんだりはしない。私がプライベート以外では、龍之介と天と楽を同列に扱うことに、納得してくれているのだろう。


『ありがとう。怒ってなくて安心した。やっぱり優しい上に心が広くて素敵』

「優しくて心が広い？それって俺のこと？」

『え、うん』

「あはは。残念だけど こう見えて実は腹わたが煮えくり返るほど怒ってるよ」

『へ』


龍之介は、どこか遠くを見つめて低い声を出す。その瞳からは、完全に光が消えていた。


「君に対してじゃなくて、君をこんなふうにした相手にね。どうあっても、許してやれそうにないなぁ」

『りゅ、龍之介くん…？貴方はアイドルなんだから、そんな顔しちゃ駄目だよー？ほら、笑って！エロいけど、爽やかで優しいお兄さんの顔をしてごらん？』

「確かに俺は、周りからそんなふうに見られているのかもしれない。でもね、エリが絡めば話は別だから。俺は本気で怒るし、声を荒げて拳だって振り上げる。
優しいお兄さんなんてイメージ、いつだって壊われてくれて構わない」


ギラリと、鈍い光ではあるが龍之介の目に光が帰って来た。そのワイルドな視線が、非常に好みである。


『か…っこい。ねぇ、やっぱ今日する？ちょっと無理すれば出来るかも』

「抱かないからね！？」


どうやら今宵は、ビーストの出番はないらしかった。