第92章 これでも頑張ったんだよ?
『その件ですが、私のデビューは1年間待ってくれませんか』
「……はぁ?ごめーん。僕、なんだか最近 耳が遠くなったみたいなんだよね。悪いけどさぁ、もう1回、言ってくれる〜?」
『は、半年で良い。半年後には必ず、私はツクモ所属のアイドルとしてデビューする。約束します』
「なめるなよ。どこで、どうして、そんな勘違いをした?お前は、僕に条件を提示出来る立場にない」
にこにこしていた彼が、途端に一変する。ころころと豹変する表情が、私は限りなく苦手であった。
しかし、ここで目を逸らすわけにはいかない。ここで引いたら、もう永遠に彼とは対等でいられなくなる。
『半年待ってもらえれば、私は何だってします。ŹOOĻのプロデュース、作曲、マネージメント。さらに、貴方の秘書だって付き人にだって犬にだってなる。
朝から晩まで、携帯を鳴らせばいつだって貴方の元に駆け付けます。
もし、この条件を飲んでもらえないなら…私は、二度と歌わない。誰が犠牲になろうと、どのグループが解散しようと、私はもう二度の貴方と取引はしない』
了は、私の瞳をじぃっと覗き込む。その鋭い双眼の、恐ろしいこと。ただ、その長い時間をひたすら耐えた。
「ま、いっか!半年なんて、君で遊んでればあっという間だ。いいよ。待ってあげる。でも、よく覚えといて。
譲歩するのは、これが最後だ」
『…感謝します』
それから私達は、契約内容の擦り合わせを行なった。
まず、八乙女プロダクションへの嫌がらせを、すぐさまストップすること。また、卑劣な圧力をかけることは今後一切 禁止とする。
それは、小鳥遊事務所や岡崎事務所に対しても同じとした。
さらに、インディーズとなったRe:valeに手出しをしないことも約束させる。
その代わりに、私はツクモに移籍。彼の言うがままの仕事を熟し、そして半年後には強制的にデビューすることとなった。
「あっはは!嬉しいなぁ!改めまして、ようこそツクモプロダクションへ!
明日からお前は、僕の新しいおもちゃだ」