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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第92章 これでも頑張ったんだよ?




ノックもせず、力任せに扉を開け放つ。了は、丸い目をこちらに向けた。そして普段通り、人を食うような話し方で対応してくる。


「やぁやぁ!待ってたよ。
あれぇ?その頭どうしちゃったの?とても痛そうだ〜可哀想に。もしかして、バーカウンターの角にぶつけでもした?傷口は平気?あっそうだ!僕がホッチキスでパッチン!って塞いであげよう!」

『契約書を。私は今日限りで八乙女を辞め、ツクモプロダクションの人間になります』


了が驚きを見せることは、一切なかった。ただ、全身で喜びを表現するだけ。それこそが、彼の手の上で踊らされている証拠である。


「ほんとに!?やったね!!あっはは!ようやくその言葉が聞けて僕は嬉しいよ!今夜はお祝いだ!さぁ、とっておきのワインを開けよう!」


だが、お前の手の上で踊ってやるのは今だけだ。近い将来、今度は私が、この男に愉快なステップを踏ませてやる!


「いよいよ伝説の歌姫の復活だ!君がステージに戻って来るのを、どれくらいの人間が待ってるのか、君には分かるのかなぁ?
あぁ、うっとりしてしまうよ。きっと、日本中の人間が君の名を呼ぶ。Lio!Lio!ってね」


了は言いながら、棚に飾られていたマリオネットを手にする。部屋中を すいすいと移動して、軽やかにそれを躍らせる。2本の組み木を彼が操れば、人形はまるで生命を吹き込まれたかのようだ。


「ハンデを背負い、それでも歌い続ける君を皆んなが応援するんだ。応援するうちに、どんどん君の虜になっていく。それからようやく君は…
再び この世から姿を消す。それで、やっと全員が気付くんだ…。

あぁアイドルなんて、どうしてそんな下らないものを必死に追い掛けていたんだろう って」


了は、マリオネットから手を離す。

人形は、関節をぐちゃぐちゃにして地に落ちた。

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