第92章 これでも頑張ったんだよ?
「Re:valeが あぁなったのは、俺の働き掛けがあったからだ」
『……あぁ?』
「ふ、やっと こっちを見たな」
落ち着け。頭に血を上らせては、冷静な判断が出来なくなる。思考が鈍る、好機を逃す。だから、落ち着け。
『どういうことでしょう』
「俺が、あの2人をターゲットに仕立てた。危なかったな。もう少しでTRIGGERに決まるところだったんだぞ?
俺が、その矛先を変えてやったんだ。良かったな?」
全身の血が、刹那の間に沸騰した。私は男の胸ぐらを掴み、思い切り壁に叩き付けた。
そして溢れる憎悪を全て込め、相手を睨み上げる。
「おいおい。どうした?俺は、あんたが望む通りに動いてやった。
おまえは俺に言ったよな?TRIGGERにとって、有益であれと。つまりそれは…
TRIGGER以外であれば、不利益を被っても問題ない。そういうことだろう?」
吐き気がするほどの、怒り。しかしそれは、虎於に対してじゃない。
いま図星を突かれている、自分自身にだ。
そう。彼の、言う通りだから。私はほんの少し前まで、そう思っていた。TRIGGERさえ、生き残れれば良いと思ってしまっていたのだ。
だから、彼を殴ることも出来ない。むしろ、自分自身をひどく傷付けてやりたい気分だった。
「俺は、取引に見合う働きをしたと思わないか?さぁ、今度は あんたが俺に差し出す番だ。一体どんな対価を支払ってくれるのか、楽しみで心が躍」
虎於の瞳が、驚きで揺らぐ。こちらも目を閉じることはなく、ただ唇を合わせた。
強引に引き寄せていた胸ぐらを離してやる。しかし彼は、しばらく背中を丸めたままでいた。
虎於が再起動するまで、待つことなく私は歩き出す。
『案内は、ここまでで結構です。さようなら』
私が居なくなった廊下で、男は不敵に笑った。
「随分と、高いキスだな。だが、悪くない」