第92章 これでも頑張ったんだよ?
「来たな。ここで待ってれば、あんたに会えると思ってた」
ツクモ本社のロビー内で、虎於は私を待ち伏せていた。微笑を湛え歩み寄って来るが、こちらには用などない。私はその横をすり抜けた。
「頭の包帯、どうしたんだ?」
向かうは、受付である。
「無視か。つれないねぇ」
『失礼。アポも取らずに不躾なのは承知ですが、社長に御目通り願えますか』
「はい。社長からは、中崎様が見えたらすぐに社長室へ通すよう申しつけられております。
どうぞこちらへ。私がご案内致しま」
「いや、案内は俺が引き受けよう。ほら、こっちだ」
べつに誰が案内役でも、こちらは構わない。そもそも、案内など必要ないのだが。
まぁそうは言っても、それはこちらの都合だ。まだツクモの人間でない私に社内をウロウロされては、きっとあちらの体裁が悪いだろう。
無言で隣を歩く私に向かって、彼は不敵に言う。
「Re:valeのニュース速報を見て来たんだろ?」
『……』
「なぁ、いい加減に何か話せよ。まぁ、あんたくらい良い女だと、黙ってても退屈しないがな」
『貴方は少し口数が多いのでは?せっかくの良い男が台無しですよ』
「はっ。やっと口を開いたと思ったら、その言い草。本当におまえは口が悪い」
『悪いのは、虫の居所なんです。分かったら、少し黙っててもらえますか』
尚も、虎於の顔を一度も見ない私。いよいよ痺れを切らしたのか、彼はとっておきのネタを口にする。
「俺にそんな態度を取ったことを、あんたはすぐに後悔するぜ?
いいことを、教えてやる」
彼がこれから打ち明ける内容に、私は急いでいた足を止めることになる。