第92章 これでも頑張ったんだよ?
『じゃあまずは、独立の話から』
「「Lioの話が先」」
分かり切ってはいたが、2対1で私の敗北が決定した。
『…ごめん。話したくない、理由があった』
こんな最悪のシチュエーションで露呈するならば、初めから打ち明けておけば良かった。なんて考えても、後の祭りだ。
しかし。その後悔を取り返すみたいに、洗いざらい告白していく。
デビューライブに始まり、喉に現れた異常。そして、今に至る過程の全てを。これで、彼らには何の秘密もなくなった。
「そうか。僕らが考えていたより、苦難の道を歩いて来たんだな」
「そんな…そんなのって、ないよ…!」
『ほら、ね。百が、そういう顔をすると思ったから…話さないでおけるなら、その方が良いと思ったの。
優しくて、人の痛みに敏感な百は、きっと泣いちゃうと思った。自分と同じ傷を抱えた人間に、強く共鳴するでしょう?』
「うぅ…、ごめんね。でも、悲しいよ。せっかく、努力して夢を叶えて、念願だったステージに立った!そこで最高の景色を観た!なのに、観た直後に、それを永遠に奪われるなんて。悲し過ぎるじゃないか!」
目にいっぱい涙を浮かべる百の隣で、千は難しい顔をしている。そして、意を決したように口を開いた。
「ねぇ、待って。でもエリちゃんの今の言い方さ…
モモは優しいけど、僕は優しくないみたいじゃない?」
『えぇ?』
「ユキ…、いま、そこ?」
「だって、優しくて人の痛みに敏感なモモって、いま言ったよね。じゃあ僕は?僕だって、エリちゃんには飛び切り優しくしているはずなんだけど」
『ぷ…!あはは!そう、だね!あはは、確かに今の言い方は、千に失礼か!』
千の言葉は、涙を浮かべる百も、過去を思い出し暗くなった私も、笑顔にした。それは、どんな励ましの言葉をもらうよりも嬉しかった。
「でも、そっか。だからエリちゃん、オレがサッカー諦めた理由を知って、泣いてくれたんだね」
【67章 1587ページ】
『…うん』
私は、フットサルをした あの日の出来事を思い出した。すると、千がまた楽しげな声を上げる。
「でも、モモに言えないと思ったなら 僕だけに話せば良かったじゃない」
「ちょっとユキ!本人を目の前にしてそれはないでしょ!!」
『あははは!』