第92章 これでも頑張ったんだよ?
せっかく場が落ち着いたというのに、私達は誰も口を開くことが出来なかった。3人とも、どこから手を付けて良いか分からなかったのだ。
私達には、話し合うべきことが多過ぎる。
それでも、誰かが口火を切らなくてはいけない。その役を買って出たのは、ムードメーカーの百ではなく千であった。
「とりあえず…君の傷をなんとかしないと。病院に行く?」
『いえ。頭を強く打ったというよりは、少し切れただけなので大丈夫です』
「分かった。じゃあまずは、傷口を洗って血を流そう。モモ。たしか救急箱があったよね」
「あ、あるある!すぐ持ってくるね!
あと、ごめん。ユキがエリちゃんを手当てしてる間、オレは…トイレで、吐いてくる。実は、そろそろ限界で…うっぷ」
その言葉通り、百は救急箱を千に託してすぐトイレに籠った。
そして私は、大人しく手当を受ける。その間、千はずっと無言だった。その沈黙が、今は何より怖かった。
「はぁ。スッキリした…」
『百、大丈夫?』
「あ、平気平気!オレ、吐いたら一晩で3回はリセット出来る体だから!そんなことより…
どうしてオレ達には話してくれなかったの!?」
『え』
「僕達は君にとって、そんなに頼りない存在だったのか!?」
『いや、ちょ!2人とも!了の目論見通りになってるから!』
「だって!信じられないよ!まさかエリちゃんが、あのLioだったなんて!」
『信じられないで言ったら、私もだから!何!あのニュース速報!岡崎事務所から出るって!?なんでそんなことになったのか説明してよ!』
「う、いや!それはほら、色々あって…ね?」
『誤魔化されないから!さっき、了が言ってた!私を守ろうとしたって。2人は、あいつから何かを守る為に自分達の身を切ったんだ!』
「その話よりもオレは先に君の話が聞きたいよ!隠してたこと全部教えて!まぁ出来ればで良いけど!」
『出来ればでいいんだ!?』
「いいよ!だって無理に聞き出してエリちゃんに嫌われたらオレ泣いちゃうもん!!」
『可愛いな!』
ヒートアップすると私と百の間に、千が割り込んだ。
「ちょっと一旦 2人とも落ち着いて。とりあえずの危機は去ったんだ。時間はある。
話さなくちゃいけないことも、山ほどあるけどね。まぁ1つずつ、順番を決めて話し合えば良い」