第92章 これでも頑張ったんだよ?
了の遊び。
嫌な予感しかしないが、状況が状況だ。従う他ないだろう。言われた通りに通話をスピーカーに切り替えて、携帯をテーブルの上に置く。
するとすぐに、了のねちっこい声が飛び出して来た。
《 やぁ!モモにユキ!そこに居るのかなぁ?》
「当たり前だろ!ここはオレの家だぞ!」
「了…お前、自分が何をしてるか分かっているのか」
《 ユキィ。僕はそんなつまらない話は好きじゃない。知ってるだろ?》
「ふん。誰が、お前と粋な会話を楽しみたいもんか。ふざけるな」
《 つれないなぁ。じゃあ、僕の方から楽しい話題を提供しよう。
まずは…おめでとーー! 》
電話口の向こうから、パフパフ!と、おもちゃのラッパ音が響いていた。千は嫌悪感を隠しもせず顔を歪める。彼のこんな表情を見るのは初めてかもしれない。
《 命が助かって、おめでとう!良かったね!それもこれも今そこにいる、TRIGGERのプロデューサー様の活躍のおかげだ!
僕は感動したよ!お友達のピンチに駆け付ける、その美しい友情に!そんな君達は当然、とっても仲が良くて互いを信用して信頼して、心を預けて合っているに違いない。
だからきっと…秘密や隠し事なんて、ないんだろうね 》
『!!
待って!』
了の画策を理解した瞬間、私は立ち上がる。しかしこの非道な男が、待ってくれるはずもない。
《 だから当然、これも知ってるよね?
君達の目の前にいる人物が、かつて失踪した伝説のアイドル…Lioだってことも 》
まるで、時間が止まってしまったみたいだ。それくらい、この沈黙を長く感じた。
私がゆっくりと下を向いて、それから2人が驚いた顔をゆっくりとこちらに向けた。