第92章 これでも頑張ったんだよ?
ピクリと、男の体が反応する。そしてすぐに懐からスマートフォンを取り出した。どうやら着信が入っているようだ。
こそこそと通話を開始するが、こっちはもう、その相手が誰なのか分かっている。
『その電話、私に代わってください』
「…は?今の、俺に言ったのか?馬鹿が。代わるわけねぇだろ」
『月雲 了!!私は、ここにいます!私と話をしろ!』
「な、なんだこいつ。頭打ってトチ狂いやがったか?」
百と千も、私の様子に息を飲む。
男達は取り繕おうとしているが、動揺しているのが見え見えだ。どうして電話の相手を、私が知り得ているのか不思議でならないのだろう。
「え、でも……はい。分かりました。
お前と、話をするそうだ」
男は、携帯をこちらへ差し出した。私は、血が付いていない方の耳にそれを当てる。
『もしもし』
《 どうして君がそこにいるのかなぁ?驚いちゃったよ!おかげで計画が台無しだ!僕の機嫌は大きく損なわれた。ねぇ、どうしてくれる? 》
『…計画って?』
《 モモをへべれけにして、窓から放り投げる計画さ!キラキラの人気アイドルが、熟したトマトを壁当てしたみたいにぐっちゃぐちゃになるんだ。素敵だろ?あ。間違えちゃった!
“ 元 ” 人気アイドルだったね 》
深い溜息をゆっくりして、怒りを放出させる。
『…ここで、私も殺しますか?
私を殺せば、もう二度と、貴方の手には入らない』
《 自分の物にならないくらいだったら、壊れちゃった方がマシだよね 》
『どうすれば…助けて、もらえますか』
《 分かってるくせにー 》
『私は…。いや、そんなことを、言ってる場合ではない、ですよね』
《 命が懸かっちゃってるからねー 》
『ですが、もう少し…考える時間をください』
《 もういい加減、その台詞も聞き飽きたんだけど。まぁいいや。その代わり、ちょっとした遊びを思い付いたんだ。付き合ってよ 》
『遊び?』
《 対価の清算を待ってあげるんだから、利子を支払うのは当然だろう?
分かったら さっさとスピーカーに切り替えて、この会話をモモとユキにも聞かせるんだ 》