第92章 これでも頑張ったんだよ?
頭の傷は、派手に血が噴き出すものだ。一瞬にして、視界の半分が赤く染まる。
「……お前ーー!!」
「あぁ!?こいつの自業自得じゃねぇか!まだまだこんなもんじゃ済まさ」
「何を、やっているんだ」
千の凛とした声が、場違いなほど美しく部屋に沁みた。溢れそうな美しい瞳が、私と百を捉えている。
「なんだ、こりゃ」
「こいつが抵抗しやがったんだよ!」
「はは。なんだよ。それでお前、一発もらったのか?ダッセェな」
「うるせえよ!!」
男達が話している隙に、千は私達の元へ駆け寄る。
「エリちゃん、平気か」
『大丈夫です。少し切っただけですから』
「あぁっ、どうしよう!こんなに血が…!ごめんね、オレが守れなか…
うっ ぷ。うぅ、ショック過ぎて吐きそう」
「モモも無事だな。よし、ここからは僕に任せるんだ」
「え?」
『千さん?』
ぬっと、男達の影がこちらに伸びる。
千は、私と百を背に庇い、ゆっくりと立ち上がった。
「馬鹿な男達だ。命知らずめ。
僕が今まで、何人の男を病院送りにしたのかも、知らないで」
「…何!?」
果たして頼りになるのか、それともならないのか分からない背中。その後ろで、私は百の耳に口元を寄せて問う。
『千って もしかして、とんでもなく強いの?』
「んなわけないじゃん!ユキの戦闘力は、残念ながら2だよ!体力も、あって20くらい!」
『MPは500ぐらいありそうなのになぁ…』
それはどうやら、男達と私達の共通認識らしい。
「はったりだ!そいつがインドアの運動音痴なのは有名な話だ!」
「テレビ用のキャラ作りだよ。あんなのを間に受けるなんて、お前達も素直だな」
「な…」
「5分だ。5分でお前達を、僕の足元にキスさせてあげよう」
嘘だ。はったりだ。でも、そうと分かっていても…
「『イケメェン…』」
私達は、危うい立場も忘れて うっとりと呟いた。