第92章 これでも頑張ったんだよ?
そこは、異様なほど静まり返っていた。今頃は、芸能記者やリポーター、カメラマンでごった返していると思ったのに。まるで、何かの圧力が働いて人払いをした後みたいだ。
“ 何かの圧 ”
わざわざそんな回りくどい言い方はもう、必要ない。何か裏で動いたとするならば、それはツクモだ。
百の様子が変なことと、関係していなければ良いのだが。
《 ……はい 》
『良かった。何度インターホンを押しても出てくれないので、心配しました』
《 なんで来たの 》
『…百さ』
《 帰ってったら!いま忙しいんだって電話でも言ったじゃん!め…迷惑なんだよ! 》
『迷惑、ですか?』
《 そう、だよ。だからお願い。帰って 》
当然、こちらから百の様子は見えていない。しかし向こうからは、こっちが見えているはずだ。
私は、ロビーインターホンのカメラを真っ直ぐに見据え、そして心臓の上に5本指を立て訴える。
『迷惑?あり得ない。
私が貴方に会いたいと家を訪ねて、それを迷惑だと言って追い返すなど。絶対に、あり得ません』
《 ぎゃーー!イケメン!春人ちゃんってばイケメン!モモちゃんの心臓が鷲掴みにされちゃうー!もうされてるけどー! 》
『と、いうわけで。私は、貴方の身に何か危険が差し迫っていると判断しました。私をどうしても追い返さなければいけないほど。
今からこの足で、警察に向かいます。それでも、この場から私を追い払いますか?
早く答えろ。私は、百の部屋にいる お前に訊いている。だんまり決め込んでも無駄だ。いるんでしょう。ツクモの犬』
しん。と、向こう側は静まり返る。やがて、百のものではない声が、ようやく返答した。
《 1人迎えをやる。そこで待っていろ 》
《 っ!やめろ!その子を巻き込むんじゃねぇよ!春人ちゃん!今すぐそこから逃げ 》
百の悲痛な叫びの最中で、接続は切られた。