第91章 相変わらずの強欲っぷりだな
「あいつらには、お前から話を通しておけ」
『それは、お断りします。ぜひ、社長の方からお願いします』
社長は溜め息を吐き、面倒そうではあるが了承してくれた。
「茨の道だな。TRIGGERも…私も」
『そうですね』
その遠い目を見れば、すぐ分かる。これまで共に歩んで来た戦友に、想いを馳せていること。
「八乙女プロダクションをここまで大きくしたのは、TRIGGERと言っても過言ではない。そんな主力タレントが出て行くのは相当な痛手だ。
だが」
『はい。本当に痛手なのは、TRIGGERの方でしょう。今まで彼らは、社長や事務所の力に随分と後押しされていましたから。
彼らにとって、初めての経験になるんです。後ろ盾が何もない状態で活動を行うのは。
言うなれば、剣も鎧も持たずに戦場に出るようなもの。援軍も来ない、物資も心許ない。そういう場所で、これから戦っていかなくてはならないのですから』
「確かにお前の言う通り、剣も鎧も、物資も援軍もないかもしれない。だが、あいつらには…
優秀な、軍師が付いているだろう」
笑うことも、こちらを見ることもせずに彼は言った。そしてただ、静かに酒を煽った。それを見た私は、まだ自分が一度もグラスに口を付けていないと気付いた。
軽くグラスを上へ掲げると、溶け始めた氷がカランと音を立てた。
きっと私達は、今日の酒の味を忘れることは生涯ないだろう。
そんな予感を胸に、一口目を戴こうとした時。テレビから、緊急ニュース速報の音が響いて来た。その人の心を波立てる音に、私達は反応する。
画面上部に、テロップが流れる。
2人は、その文字を目で追ってそして、驚愕した。
《 アイドルグループ Re:vale 。岡崎事務所より独立を表明 》