第91章 相変わらずの強欲っぷりだな
対峙した瞬間に、何故だか相手の心が透けて見えた気がした。
あぁ、彼も、きっと私と同じことを考えている。
『何か、お入れしましょうか』
「…あぁ。頼む」
気が付けば、そんな言葉を口にしていた。
私は社長の前にあった古い酒を持ち、バーカンに入る。丸氷が切れていたので、ブロックアイスを適当に割り、アイスピックで球体に整えていく。
『今の御気分は?』
「スコッチだな。15年のものにしてくれ」
『畏まりました』
とくとくと、小気味の良い音と共にグラスを満たす。それをテーブルに置くと、御礼の代わりに彼は告げた。
「お前も、何か飲め」
『えっと…まだ、勤務時間内ですが』
「固いことを言うな。私が飲めと言っとるんだ」
『そういうこと、でしたら』
社長と同じ物を自分用に注ぐ。そして今度こそ、2人は話し合いの場に着いたのだった。
彼は、テーブルの上に手を伸ばす。持ち上げたのは、グラスではなくテレビのリモコン。スイッチを入れれば、今をときめくアイドルの姿が映し出される。それは、TRIGGERでなくŹOOĻであった。
画面の中にいる4人を見て、社長は鼻で笑った。
「ふん…昨日デビューしたばかりの ひよっこが、もうテレビでちやほやされているのか」
『彼らを少しでも早く世に浸透させたいという、ツクモの本気が垣間見えますね』
リモコンを置き、グラスに持ち替えた。手の中でグラスを回せば、スコッチが中でゆらゆらと揺れる。私は、その様子を黙って見ていた。
「TRIGGERをデビューさせた当時は、まさかこうなるとは考えていなかった」
『……』
「あいつらなら、間違い無く天下を獲れると確信した。その為なら、どんな汚い手段を選ぶのも厭わない。そう思ってもいた。
それがまさか…逆に、こちらが汚い手段で貶められるとはな」
『…あの、社長』
「中崎」
『はい』
「TRIGGERを、八乙女プロダクションから切り離す」