第91章 相変わらずの強欲っぷりだな
『…月雲 了!!』
「わぁお怖〜い!そんな顔して睨まないでおくれよ。あと、そこのスタッフ君に当たるのもやめてね?彼は、僕の指示に従っただけなんだから」
「っ、テメェの指示だと!?」
楽は、了の胸倉を掴んだ。私と、そして龍之介やスタッフ達がなんとか楽を止める。
「離せ!もう、こいつだけは許しておけねぇ!」
「キャー!TRIGGERの八乙女楽が!僕を!殴るつもりだよー!誰か!ちゃんとカメラで決定的瞬間収めてね!」
「楽やめろ!いま殴ったりしたら、こいつの思うツボだ!」
龍之介とスタッフが叫ぶ中、天の、凛とした声が通る。そして、その天は真っ直ぐに前だけを見据えていた。
了や楽、曲を流したスタッフなどには目もくれず、空であり続けるステージだけを見据えていたのだ。
「楽、龍。行こう」
「は!?行こうって…まずはこの音止めて、俺達の曲を流さねぇと!」
「もう、待てない」
「天…」
「これ以上 無人のステージをファンに見せ続けるくらいなら、ボクは1人でも行く。
キミ達は忘れたの?ボクらの最初のステージのこと。歌詞のない曲をバックに、3人でステップを踏んだあの夜のこと。
大丈夫。たとえこの音楽を知らなくたって、TRIGGERならやれる。ダンスだけで、ファンの皆に、恋をさせてみせる」
天は、笑顔だった。それにつられるようにして、龍之介も笑う。やがて楽も、了から手を離し歩き出す。
そして3人は、並んでステージと向かい合った。
『…なるべく早く、本来の曲を流します。どうかそれまで、間を繋いでください』
3人は、力強く頷いた。