第90章 どうしても聞いてもらいたい話
姉鷺から返って来たばかりの携帯で、ある男へ電話をかける。出てくれるか、留守電に繋がるか。五分五分だったが、私は賭けに勝った。
《 はい。もしもし? 》
『私です。いまお時間大丈夫ですか?』
《 あぁ、平気。周り誰も居ないから、楽に話していいよ 》
『ありがとう。いきなりで悪いんだけど、ちょっと訊きたいことがあるの。万理』
《 本当にいきなりだな。でもいいよ。どうかした? 》
私はスマホを、右手から左手に持ち替えて、万理に質問をぶつける。
『Whaleの総支配人から、何かアクションはあった?事務所に来たとか、アポ取る為の連絡とか』
《 今のところは、ないな 》
『そう…』
やはり、ないか。
それはあまりに、不自然ではないだろうか。普通、1位2位を走るグループを差し置いて、3位にいる八乙女プロだけに顔合わせに来るか?
それとも、総支配人もまた、TRIGGERが1位になると踏んでいたのか?
《 おーい。黙り込んでどうした? 》
『ごめん。ところで、もしIDOLiSH7が1位になったらさ、やっぱりこの仕事受ける?』
《 当たり前だろ。話題沸騰中のWhaleでこけら落としライブだぞ?断る理由がないよ。絶対に受ける 》
『そう、だよね。うん。ありがとう。参考になったよ』
《 こんな話で何が参考になったんだか。相変わらず、エリは分かりにくい。お前には、俺が見えてない景色が見えてるんだろうな 》
『はは。何言ってんの。今も昔も、私達は同じ景色を見て走ってたでしょ。
昔は音楽に支えられて。今はアイドルを支えてる。私達ほど似た人生送ってる2人はいないって』
そう言って笑いを零せば、受話器越しに万理の笑い声が聞こえてくるのだった。