第90章 どうしても聞いてもらいたい話
デスクへ積まれた資料の1枚が、ふわりと持ち上げられる。手にしたのは天だ。彼は、私が伏せていたその資料をまじまじと見つめる。
『天、ちょっと勝手に…。もしそれが、貴方達に秘匿しておきたい内容の1枚だったとしたらどうするんですか』
「その時は、ボク達の間に秘密なんて作った罰でお仕置きでもしようか」
『全てを話しましょう』
「ふ、素直で大変よろしい」
裏向けていた資料を、表に返す。3人は早速、それらに目を通し始めた。
『Whaleの、総支配人とスポンサーについて調べていました』
「もしかしたら、ツクモが用意した罠。その可能性があると踏んだ?」
『その通りです』
天は、相変わらず鋭い。私の目論見に一番最初に気付くのは、いつだってこの最年少である。
「ツクモが、また俺達に何か仕掛けてくるってのか」
「それで、結果はどうだったの?総支配人とスポンサーは、ツクモと繋がってた?春人くん」
『グレー。と言ったところでしょうか。総支配人には、特定の権力者と懇意にしていたり、強い後ろ盾があったりと、そういう背景は見受けられませんでした。ですが逆に言うと、これ以上 買収をし易い人間はいないでしょう。
スポンサーですが、多からず少なからず、ツクモと関わっている会社が資金提供を行っている事実はありました。が…やはり、罠と断言するまでには至りませんでした』
潔白の証明も、確固たる証拠も、どちらも彼らの前に提示することは出来なかった。
「グレーか。ま、どんな色だったとしても関係ねぇけど」
『え?』
「そうだね。たとえ黒でも、俺達がもし1位に選んでもらえたら、ステージに立つよ」
『…まぁ。それもそうですね』
「これが、TRIGGERを陥れる罠だったもしても。ボクらは揃って、飛び込むだけだ。
そこに、ボク達の歌を聴きたいと、望んでくれるファンがいるなら」