第90章 どうしても聞いてもらいたい話
デスクの上に置いた、内線電話の親機が鳴る。ディスプレイに映ったのは、社長 という文字だ。私はすぐに応対する。
『はい』
《 例のアンケートは見たか? 》
『はい。さきほど』
《 話が早いな。その件で、Whaleの総支配人がアポを求めて来た。明日の昼、予定を空けておけ。お前にも同席してもらう 》
『分かりました。あの、社長』
《 どうした 》
『…いえ。何でもありません』
私は、喉元まで出かかった言葉を引っ込めた。嫌な予感がする。そんなのは、何の根拠もない勘だ。この好転の兆しが見えたタイミングで、わざわざ伝えるのはベストじゃない気がした。
それから、数時間後。ボイトレを終えたTRIGGERメンバーが部屋を訪れた。彼らの耳にも、情報は既に入っているらしい。これ以上ない良いニュースに、顔が綻んでいる。
「おい春人!アンケート、俺らいま何位だ?」
『3位で変わりなしですよ』
「ははっ。そんなにすぐ変動しないよ」
「だよな。でも…1位獲って、ライブしてぇな。難しいのは分かってるけど、ファンに俺らが元気にやってるってとこ、見せて安心させてやりたい」
楽の言葉に、2人も頷く。
私も、分かってはいた。彼らが強く、ライブをしたいと願っていること。
彼らはアイドルだ。ファンの前で、歌とダンスを披露すること。これこそが最大の喜びであり、生業なのだ。
それなのに。ここ最近の私は、彼らにそのステージを提供出来ていない。
それがずっと、心苦しかった。
3人が1番やりたいことを、心置きなくやらせてあげたい。それこそが、私の最大の喜びであり、生業なのだから。