第90章 どうしても聞いてもらいたい話
帰りの車中。
冷静を取り戻した楽は、さきほど無駄にした時間を取り戻すかのように話し始めた。
「まぁ、好きになった奴がたまたま男だったってだけの話だからな。俺はそういうの、普通に良いと思うぜ。もっと早く教えてくれりゃ良かったのに。龍が前にバーで話してくれた時とかにでもさ」
「一応は職場恋愛になるわけだから、秘密にした方が良いかなって思ったんだ」
「なんっだよ!水臭ぇな!」
楽は、龍之介の背中をバンバンと叩く。それを、無感情の瞳で見つめている天。私は私で、運転に集中するふりをして会話への参加を避けた。
「で、今は一緒に暮らしてんだろ?」
「えっ!ど、どうして分かったんだ!?」
「前から思ってたんだけど、お前らから同じシャンプーの匂いがするんだよ。やっぱ気のせいじゃなかったんだな」
「シャ、シャンプー…」
「ねぇ。色々と驚異的に鈍いくせして、嗅覚だけ異常に鋭いのなんなの?ねぇ」
「おう。俺は鼻も良いし、目も良いぞ。あぁ あとな…顔も良い」
「……」
「なんか言えよ」
ハンドルを握る私は、密かに すんすんと鼻を鳴らした。まさか、シャンプーの匂いとは。盲点であった。これからは、龍之介と私が使うシャンプーは別にしよう。
早速、今日の帰りに薬局へ寄って帰るのであった。