第11章 本当に…ありがとう
《貴女を見つけた瞬間は、本当にスカウトしたいと思ったのに。
どうしてでしょう。今は…、貴女を世に出すのでは無く 独り占めしたいと思っている自分がいるのです》
「「うわ…」」
「あまーーーい!」
『公開処刑か!私に何の恨みがある!』
姉鷺からボイスレコーダーを受け取った楽は、ノリノリでそのスイッチを入れていた。
「春人くんっ、俺の為にこんな、…くっ」
楽しむ3人。同情する龍之介。どちらの反応もお断りだ。
『いやもう本当に勘弁して欲しいです。なぜわざわざ私の前で聞く必要がありますか…』
「キミの前で聞きたいからだよ」
なんだその理由は。そんなキリっとした顔で言われても…。
《…どうか 心だけは、私に下さいませんか》
甘い台詞を吐き続ける、ドライブレコーダーの中の私。だんだん羞恥心が麻痺して来たところで、楽が疑問を口にする。
「でも、この女に吐かせる為に ここまでお前が言う必要はなかったんじゃないか?」
私はパソコンで仕事をしながら、素直に答える。
『少しでもその確率を上げる為ですよ。恋は盲目と言うでしょう。彼女には、私だけを見つめさせて信じさせ。正常な判断が出来ないようにしたかったんですよ』
実際、彼女が聡い人間だったら。こちらは詰んでいた。出版社との秘密を漏らさず、固く口を噤んでしまえば 私に勝ち目はなかったのだ。
やはり、恋は人を駄目にする。
「…怖い女」
ぼそっと、私にだけ聞こえる声で囁く姉鷺。